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小説 クロスオーバー



☆☆☆小説 クロスオーバー☆☆☆
著作 by 秋野創(ペンネーム)

あらすじ



還暦になったばかりの医師、中里匡は・・・。



1章 新宿西口


 還暦になったばかりの医師、中里匡は長年勤めていた会社を辞職することにした。まだ、嘱託でいくらでも働くことはできたが、もうサラリーマン生活もいいだろう、と見切りをつけて辞めることにした。まだ、会社には、その意志を伝えていない。部長は、おそらく中里が続けて働くものとかってに決めている。会社は、便利な人間はできるだけ利用したいのだ。しかし、使い勝手の悪いものは、どんどん切り捨てられていく。中里は、どのようにして、穏便に身をひいていこうか、考えながら、新宿西口のJR改札前の広場を横切っていた。すると、前から急に現れた青年を避けきれなくって、激しくぶつかってしまった。バランスをくずして倒れると、青年は「ごめんなさい、ちょっと急いでいるので」と言って立ち去ってしまった。


 「ひどいやつだ、まったく、自分からぶつかって来ておいて、相手を助け起こそうともしないなんて。」中里は、そう一人つぶやきながら、立ち上がった。なんだか、以前よりも身が軽い。軽くコートをはたいて、落としたかばんを拾って、歩き始めた。数歩歩いて立ち止まった。人の流れがクロスする新宿、後ろから歩いて来た男が、ぶつかりそうになるのを、身をよじって避けながら、舌打ちをして通り過ぎた。止まればただちに、人を遮ってしまう。彼は、流れを避けて、柱の影に移動しながら、自分の服からズボン、靴まで見下ろした。明らかに、自分のものではない。60歳の男が身につけるものとは異なり、明らかに20代の若者の服装である。それが窮屈かと言えば、そうでもない。まるで首から下が別人のようであった。鞄は、中里がいつも愛用しているビジネスバッグではなく、どこにでもあるような、パソコンが入った安っぽいビジネスバッグである。ポケットに手を入れてみると、財布と学生証と定期のケースがあった。学生証は埼玉県立医科大学医学部5年、里中圭司と名前があった。


 「俺は、鞄をとりちがえたのか?いや、学生証は、私のポケットから出て来たのだ。鞄だけじゃない。コートもズボンも靴も、すべて他人のものだ。」何が起こったのか、さっぱりわからない。先ほどぶつかった男はいないかと、見渡したが、それらしい姿はない。とにかく家に帰ろうと、電車に乗る前にトイレに入った。夕方から冷えてきているので、トイレに行く人が多い。少し並んでトイレをすませた。手洗いの鏡を見て凍りついた。そこには、まったく自分ではない姿が映し出されていた。しばらく、自分ではない自分をしげしげと見つめた。手であごやほおをさわってみて、初めて自分の首につながっている顔だということがわかった。「俺は誰だ?」思わずつぶやいた。ポケットから学生証を出すと、そこにある写真が、今、鏡に映っている。かわるがわる、鏡と学生証を見比べて、自分は、どうやら「里中圭司」かもしれないと思い始めた。このままでは、家に帰れない。「帰っても、家族の誰も、俺が中里匡だとは認めてくれないし、説明もできない。」と思った。


「これらは、次に来るものの影であって、・・・」
(コロサイ人への手紙 2:17)

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