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小説 クロスオーバー


☆☆☆小説 クロスオーバー☆☆☆
著作 by 秋野創(ペンネーム)

8章 残響する言葉


 医学部の最終学年は、卒業試験と国家試験の準備で、飛ぶように時間が過ぎていった。病棟実習をやりながら、グループで膨大な過去問題集を解いて、互いに解説していく。私のグループは、歩深と同じ、そしてテニス部の佐伯徹、瀬野春香、管弦楽部の山元弦座、都辺ルイの6人組だった。徹はネットプレーが上手くて私のダブルスの相棒だった。繋いでゲームを作るのは私の役目、決めるのは彼の役割だった。頭も良くって天才肌である。春香はやはり才媛で、特に整理術にたけていた。複雑で雑多な事柄をキチンとオーガナイズしてくれる。弦座は音楽の天才だが、グループでは一番の怠け者、でも気立てがいいので憎めないやつだ。ルイはバイオリン弾きだが、恐ろしく記憶力があり、それだけで十分食べていけそうな女だった。歩深は、愛敬とユーモアがあって、潤滑油の働きをしていた。

夏休み、大学の教室の片隅で、グループで2日に一度集まって勉強会だ。
「あーあ、爆弾問題で自殺したい!」弦座が言った。
「爆弾問題じゃ、自殺出来ないわよ。だって、限られているし、明らかにわかる問題だから。」ルイが応えた。
「そうか、爆弾問題は、点取れる問題なんだよね。そう考えればいいんだ。」歩深が、ポジティブな意見を言った。
「それにしても、量が膨大で、自分にやりきれるかな?」弦座の本音だ。
「誰だってそう思うよ。」
「でも、半分は過ぎたし。」
誰だって不安はある。それを正直に口に出すかどうかは、その人しだいだ。
「あのね、1日の労苦1日に足れり。明日のことを思い煩うな、て言葉があるよ。」歩深が言った。
「また、イエスさまのお言葉かい?」と、冷やかすように徹が言った。
歩深は臆することなく、「ビンゴー」と言って、微笑んだ。
「へ〜、そんな言葉、聖書にあるんだ?」里中は感心して言った。まさに、自分たちの置かれた状況はそうである。明日を見ると、不安ばかり、不安ばかり押し寄せてくる。1日1日ベストを尽くして、それで十分だよ、と誰かが言ってくれたら、どんなに心安まるであろうか。里中はイエスの言葉に関心をもった。
「じゃあ、爆弾問題から行くよ。整理してきたからね。」と春香が言って、その日の第2セッションが始まった。国試問題に没頭していく中で、耳の片隅にこだまのように残響するものがあった。

「これらは、次に来るものの影であって、・・・」
(コロサイ人への手紙 2:17)

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