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小説 クロスオーバー


☆☆☆小説 クロスオーバー☆☆☆
著作 by 秋野創(ペンネーム)

12章 脳腫瘍



 フミがあまりにも心配するので、脳外科の外来を受診した。念のためにMRIと脳波をとることになった。頭痛はあるか、と聞かれたが、もともと頭痛持ちで、週に1~2回はあることがある。調子のいいときは、ずっと何もないこともあるが、最近は疲れがたまっていて、あるといえばあった。ただ、市販の頭痛薬で止まるので、あまり気にしてはなかった。脳外科の主治医は、同じ大学の先輩で、能海といった。テニス部ではなかったが、器用なスポーツマンで、以前遊びでテニスをしたこともある仲だった。フミとつきあっていることも知っていた。検査の結果は、脳波の検査の後に聞くことになっていたが、脳波検査の前日、電話があって、脳外科に呼び出された。なんだろうと思って行くと、フミも来ていた。
「なんだ、フミも来てたの?何か、ついででもあったの?」と声をかけると、
「ええ・・・」と不安気にうなづいた。二人の間柄を知っている能海医師から呼び出されたとは、言いにくかった。
「それで、先生、今日はなんですか?追加の検査ですか?」自覚症状もないので、里中はのんきにたずねた。
「里中君、MRIの結果が出てね、すぐ入院、治療しよう。」むずかしい顔で言った。
「ええ、こんなにピンピンしてるのに、まさかMRIで脳腫瘍でもあったのですか?」と里中が答えると 「そうだ、残念だけど、脳腫瘍があった。グリオブラストーマ疑いだ。あまりたちはよくない。今はそれほど大きくないけど、この先、急速に発育するケースもある。治療は急いだ方が良い。」
「本当ですか?」フミは絶句した。
里中も、予想外のことに驚いた。なんとなく、自分のことのようではなくてピンとこないが、能海先輩が広げるMRIの画像を見て、その大きくはないが、いびつな白い固まりに眉をしかめた。
「能海先生、グリブラって、グレード4でしたよね。」
「そうだ。(グリブラの)多くの場合は60歳以上だから、まだ100%決まったわけではない。」
「5年生存率は、どれくらいですか?」
「グリブラだとかなり、悪い」能海は10%とは、とても言えなかった。平均余命は2年弱だ。
「だから、早く入院して、診断と治療方針を決めたい。おそらく手術になるだろう。」
「その他の可能性はありますか?」フミが聞いた?
「もちろん画像だけだから、100%とはいえない。里中君は若いから、unusualだしね。」
しかし、画像はあきらかにいびつな浸潤像を示しており、脳外科専門でなくても、決していい顔をしているとは思えない。それは、3人ともわかっている。ただ、口に出せないだけだ。

 里中は、1日猶予をもらって、明日入院することにした。

 脳外科を出たフミと里中は、無言で病院の中を歩いていた。里中の胸の中は、不思議に落ち着いていた。あの塵肺の患者の『先生、俺は死にたくネエ!』と言った声が、脳裏に響いて来た。その後に、『わたしを信じる者は、死んでも生きる』というイエスさまの声が聞こえてきたからだ。しかし、フミのことを考えると心が痛い。
フミは、自分の悪い予感が現実となり、ショックを受けていた。しかし、何か解決の道筋があるはずだ、とにかく調べてみないと、と必死で考えていた。すると、もう一つの声で、信頼できる脳外科の判断以上に、自分で解決の道筋を見つけることができるか、と返ってくる。「明日の夜、入院した後、また会いに来るね。」かろうじて、そうほほえんで、二人は分かれた。

 自分の部屋に帰って、里中はネットを使って、自分の病気について調べてみた。どう考えてみても、画像は、悪性の脳腫瘍で、仮にグリブラではなかったとしても、取りきれるものではないと思われた。確かに、グリブラは、主に60歳以上で発症する。里中の年齢では、あまりみかけない。しかし、ないとは言えないだろう。5年生存率が10%で、平均寿命は2年弱。とりあえずは、手術で腫瘍をとって、確定診断をして、放射線治療か化学療法だろう。その上で、残された時間は2年弱。覚悟を決めた。


「これらは、次に来るものの影であって、・・・」
(コロサイ人への手紙 2:17)

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